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東京地方裁判所 平成10年(ワ)6459号 判決

原告 株式会社ドリーム

右代表者代表取締役 栗城正夫

右訴訟代理人弁護士 松原暁

被告 フランスベッド株式会社

右代表者代表取締役 池田茂

被告 フランスベッド販売株式会社

右代表者代表取締役 今西忠夫

右両名訴訟代理人弁護士 岡村勲

同 北尾哲郎

同 京野哲也

同 加藤公司

同 相葉和良

同 土川泰信

同 山上俊夫

同 早川美恵子

主文

一  被告フランスベッド株式会社は、原告に対し、四九万六五六三円及びこれに対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告フランスベッド販売株式会社は、原告に対し、一二九四万一五三八円及びこれに対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは、原告に対し、連帯して四億〇一三八万一四六三円及びこれに対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、痩身器、美顔器、脱毛器などの美容機器の研究開発・製造販売、これらの美容機器の販売を目的とするエステティックサロンの経営やそのノウハウを用いたエステティックサロンの経営指導を行っている株式会社である。

被告フランスベッド株式会社(以下「被告フランスベッド」という。)は、寝具、家具、健康機器などの製造販売等を目的とする株式会社であり、被告フランスベッド販売株式会社(以下「被告フランスベッド販売」という。)は、寝具、家具、健康用機器類の販売等を目的とする株式会社で、被告フランスベッドの関連会社であった(現在は子会社)。

2  被告フランスベッドは、平成七年七月ころ、原告が開発中の超音波・低周波を利用した痩身器「ドリームソニックウェーブアンドトーニング」(以下「本件商品」という。)を継続的に購入することについて、原告と交渉を始めた。

3  被告フランスベッドは、平成八年一月一七日ころ、原告に対し、購買基本契約書、品質保証に関する覚書、御取引先調査表、領収書印鑑届及び銀行口座振込依頼書、印鑑票を交付した。原告は、これらの書類に署名押印した上、平成八年一月二九日、印鑑証明書と共に、被告フランスベッドに送付した。

4  被告フランスベッドは、平成八年二月二三日、原告に対し、本件商品の取引を取り止める旨申し入れた。

5  被告フランスベッド販売は、平成八年三月二六日、原告との間で、本件商品等の取引開始に伴う処理要領を定めて、本件商品等を購入する契約(以下「本件契約(一)」という。)を締結した。

6  被告フランスベッド販売は、平成八年七月二七日、原告との間で、原告の協力を得てエステティックサロンを経営し、エステティックサロンで販売する本件商品等を原告から仕入れる旨の契約(以下「本件契約(二)」という。)を締結した。

7  被告フランスベッド販売は、平成八年九月一三日、原告に対し、本件契約(二)を解消する旨申し入れた。

二  本件は、原告が、被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償及び年六分の割合による遅延損害金を求めた事案である。

三  原告の主張

1  被告フランスベッドとの契約

被告フランスベッドが平成八年一月一七日ころ原告に対し購買基本契約書等を送付したことは契約の申込みであり、原告が平成八年一月二九日に被告フランスベッドに対し購買基本契約書等に署名押印して返送したことが承諾の意思表示である。したがって、原告と被告フランスベッドとは、本件商品の継続的販売契約(以下「本件係争契約」という。)を締結したものである。

2  被告フランスベッド販売との契約

(一) 被告フランスベッド販売は、平成八年三月二六日、原告から本件商品を仕入れて一手販売する旨合意して、本件商品の販売に関する本件契約(一)を締結した。

(二) 被告フランスベッド販売は、平成八年七月二七日、原告からノウハウの提供を受けてエステティックサロンを開設し、そこで販売する本件商品等を原告から仕入れることなどを内容とする本件契約(二)を締結した。

3  被告らの責任

(一) 被告フランスベッドは、平成八年二月二三日、原告との契約の履行を一年間中止したいと申し入れ、契約を履行しなかった。なお、この際、被告フランスベッドは、原告に対し、被告フランスベッド販売を紹介した。

(二) 被告フランスベッド販売は、本件商品が若い女性を対象とするものであるのに、六、七〇歳代の高齢の女性社員に営業を担当させるという失策を犯し、本件契約(一)の本旨に従った誠実な販売活動をしなかった。その結果、本件商品の売上実績は上がらなかった。また、被告フランスベッド販売は、本件契約(二)を一方的に破棄した。

(三) したがって、被告フランスベッドは、債務不履行、法人格否認(被告フランスベッドは、被告フランスベッド販売の責任についても、責任を負う。)又は被告フランスベッド販売との共同不法行為に基づき、また、被告フランスベッド販売は、債務不履行又は被告フランスベッドとの共同不法行為に基づき、原告に対し、次の4の損害を賠償する責任がある。

4  原告の損害

(一) アタッシュケースの発注に伴う損害九六六八万八〇〇〇円

原告は、平成七年一二月二二日と同月二五日、アラハリ食品株式会社(以下「アラハリ食品」という。)に対し、本件商品を収納するアタッシュケース三万台と金型を発注した。アラハリ食品は、必要な金型を作成し、原材料を仕入れ、とりあえずアタッシュケース一万二〇〇〇台を製造した。しかし、被告らの契約違反により、アラハリ食品に発注したアタッシュケース等は不要となった。

なお、原告は、被告フランスベッドから月一〇〇〇台は売れる、全国展開する、納期を厳守してもらわないと困ると言われ、製造原価を下げることも考えて、大量一括の発注をしたものである。

原告は、平成八年三月二九日にアラハリ食品に代金の一部一四〇〇万円を払ったが、平成九年一月一一日、さらに八二六八万八〇〇〇円の違約金を支払うとの示談をして、その後、右違約金を支払った。以上の合計額は、九六六八万八〇〇〇円である。

(二) 顧客を失ったことによる損害二億五〇五七万円

被告フランスベッドは、原告との本件係争契約締結に先立ち、平成七年一二月ころ、原告に対し、被告フランスベッドが本件商品を一手販売するので、既存の取引先を整理縮小して取引を解消するよう要請し、原告も承諾した。原告は、平成七年末から平成八年始めにかけて、既存の取引先六社に対し、本件商品の出荷を整理縮小する旨告げた。

そのため、原告(三月期決算)は、これらの取引先六社の信用を失い、六社に対する売上げに係る粗利益は、平成六年度(平成六年四月から平成七年三月まで。以下同様)が九八六六万円、平成七年度が一億一三四七万円であったが、平成八年度は五〇三七万円、平成九年度(半年分)は八六二万円と大幅に減少した。

原告の平成六年度及び平成七年度の平均粗利益は一億〇六〇六万円であった。原告は、少なくともその後三年間は同額の粗利益が見込めたもので、その合計金額は、三億一八一八万円である。原告は、この金額から平成八年度の粗利益五〇三七万円及び平成九年度の推定粗利益一七二四万円を控除した二億五〇五七万円の得べかりし利益相当額の損害を受けた。

(三) カタログ代金四九万六五六三円

原告は、被告フランスベッドの依頼に応じて、本件商品の販売用カタログを作成した。その代金は、四九万六五六三円である。

(四) 研修施設の内装費三〇〇万円

原告は、被告フランスベッド販売からエステティックサロンに勤務予定の新人の研修を依頼されたので、研修会場とするため、原告代表者所有の倉庫の内装工事をした。その代金は、三〇〇万円である。

(五) 商品代金一三〇〇万円

原告は、被告フランスベッド販売の求めに応じて、同被告がオープン予定のエステティックサロン一号店に納入するため、業務用機器、販売用の機器・化粧品を準備したが、被告フランスベッド販売は、引き取らなかった。その合計額は、一三〇〇万円である。

(六) 業務用脱毛機材料代金七六二万六九〇〇円

被告フランスベッド販売は、原告に対し、本件契約(二)締結の際、五〇店のエステティックサロンを開設して全国展開を図ると約束した。そこで、原告は、本件契約(二)を履行するため、業務用脱毛機三〇台分の材料を準備したが、無駄になった。その金額は、七六二万六九〇〇円である。

(七) 制裁的慰謝料三〇〇〇万円

被告らは、原告から、本件商品の特徴や販売のノウハウ、エステティックサロンの運営経営ノウハウをあますところなく盗んだ。被告らの行為は、単なる契約違反にとどまらず、原告に対する悪意に満ちた侵害である。原告は、顧客を失い、将来の発展の礎を破壊された。被告らは、制裁的慰謝料として、少なくとも三〇〇〇万円の支払義務がある。

四  被告らの主張

1  原告と被告フランスベッドとの本件係争契約について

被告フランスベッドは、本件係争契約を締結していない。

(一) 被告フランスベッドが平成八年一月一七日ころ原告に対し購買基本契約書等を交付したことは契約締結に向けての申込みの誘因であり、原告が平成八年一月二九日に購買基本契約書等に署名押印して被告フランスベッドに対し送付したことは申込みの意思表示である。被告フランスベッドは、最終的には本件係争契約を締結しない旨決定したので、原告から送付された購買基本契約書等に署名押印していない。

(二) 被告フランスベッドは、本件商品に係る原告との取引を前向きに検討し、契約締結寸前まで交渉が進んだ。しかし、本件商品の買主からクレームが出た場合、原告が適切に対応することができるかとの疑問が社内で出され、被告フランスベッドは、平成八年二月一九日、原告との取引はやめるとの結論に達し、同月二三日、原告に対し、取引を断る旨申し入れた。

2  原告と被告フランスベッド販売との契約について

(一) 本件契約(一)は、本件商品が売れるかどうかを見るためのテスト販売のためのものである。被告フランスベッド販売が本件商品を一手販売することを合意したものではない。

なお、被告フランスベッド販売は、被告フランスベッドから契約を引き継いだものではなく、同被告とは無関係に、独自の判断で原告と取引を開始することにしたものである。したがって、被告フランスベッド販売に何らかの責任があるとしても、被告フランスベッドとの共同不法行為はない。

(二) 被告フランスベッド販売は、東北、北海道まで行って商品説明会を行っており、本件商品を販売すべく熱意を持って努力したが、結果的に成果が上がらなかった。被告フランスベッド販売は、五〇歳代中心の販売員が原告の神山久美(以下「神山」という。)部長の指導を受けながら営業する旨原告と合意していた。被告フランスベッド販売に本件契約(一)の不履行はない。

(三) 被告フランスベッド販売の内部で、本件契約(二)締結後の平成八年八月中旬ころ、本件商品が医療機器に関する薬事法などの法律に抵触するのではないかと問題になった。そこで、非公式に厚生省に相談したら、本件商品が医療機器と判定される可能性があり、また、エステティックはクレームが多くリスクが大きいと言われた。被告フランスベッド販売は、平成八年九月一二日、検討の結果、原告との本件契約(二)の取引を中止する旨決定し、翌一三日、原告にその旨伝えた。

(四) なお、被告フランスベッド販売は、原告に対し、事情を説明して謝罪し、原告の正当な損害を支払う用意がある旨伝えたが、原告は、被告フランスベッドに対する分と合わせて九億円を超える法外な請求をしたため、折り合いがつかず、本件訴訟に至ったものである。

3  原告の損害について

(一) アタッシュケースの発注に伴う損害について

原告がアラハリ食品に対しアタッシュケース三万台を発注したことは、否認する。被告フランスベッドが本件商品は月一〇〇〇台は売れる等と言ったことは、具体的な話ではなく、原告との合意内容となるものではない。

原告がどれだけ売れるかわからない本件商品のために三万台ものアタッシュケース(その代金は原告の年間売上高に相当する)を発注したとは、考えられない。アラハリ食品は、食品の販売を目的とする会社であり、アタッシュケースの製造を受注するような会社ではない。また、原告は、被告フランスベッドが取引を断った平成八年二月二三日の時点では、アタッシュケースを発注済みであることを一切言わなかった。

なお、原告がアタッシュケースを発注していたとしても、他に転用することが可能であるから、原告に損害はない。

(二) 顧客を失ったことによる損害について

被告フランスベッドは、本件商品を一手販売する旨原告と合意したことはなく、原告に対し、既存の取引先の整理縮小を要求したこともない。本件商品は、平成七年七月の時点では、開発中で完成していなかったから、原告の既存の取引先の整理縮小を要求する必要性はなかった。原告の既存の取引先に対する売上げが減少したとしても、被告らとは関係がない。

(三) カタログ代金について

原告の主張は、認める。

(四) 研修施設の内装費について

被告フランスベッド販売が原告に研修を依頼したことは認めるが、原告が研修会場のために内装費を支出したことは否認する。

原告は、既存の施設で研修を実施した。

(五) 商品代金について

原告が被告フランスベッド販売のために商品を準備したこと、被告フランスベッド販売がその商品を引き取らなかったことは、認める。

原告はその主張の商品を保有しているから、商品代金の全額が損害になるわけではない。

(六) 業務用脱毛機材料代金について

原告が準備した業務用脱毛機の材料が被告フランスベッド販売との本件契約(二)を履行するためのものであったことは、否認する。

被告フランスベッド販売は、本件契約(二)において、直営家具店「エフビーヨコハマ」でエステティックサロン店を開くことを合意したにすぎない。被告フランスベッド販売は、売上げが上がるようなら支店を利用して店舗展開を図ることも考えていたが、最初からエステティックサロン店を全国展開するとの計画があったわけではなく、原告に対し、全国展開を約束したこともない。

(七) 制裁的慰謝料について

争う。

第三当裁判所の判断

一  本件紛争の経過

争いのない事実と証拠(甲九の1から6まで、一〇の1、2、一一、一二、二六の1、2、三〇、三一、三三、三四、三五の1から3まで、三六の1から7まで、三七から四一まで、四二の1から4まで、四三から四六まで、五四、乙二の1から6まで、四、七から一一まで、証人渡辺義男、証人鎌田民雄、原告代表者)によれば、次の事実が認められる。

1  被告フランスベッドの渡辺義男(以下「渡辺」という。)神奈川営業所長は、取引先から原告の商品を紹介された。渡辺は、平成七年七月二七日、被告フランスベッドの千葉敏之(以下「千葉」という。)営業本部営業企画部催事推進課長と共に、原告を訪問した。原告代表者栗城正夫(以下「栗城」という。)は、当時開発中であった本件商品の説明をし、千葉らは、本件商品に関心を持った。

2  原告が本件商品の試作品を製作したので、平成七年一〇月四日、被告フランスベッドの事務所に、栗城、千葉、渡辺らのほか、被告フランスベッドの研究部のスタッフが集まって、試作品のデモンストレーションが行われた。研究部のスタッフが加わったのは、本件商品が機械部分を有するため、安全性等の観点からの検討も必要であったからである。本件商品に対しては、PL問題に適切に対応することができるか、薬事法等に抵触するおそれはないかなどの問題点が指摘された。完成品ができたら、また検討することとして、この日の検討を終えた。

なお、この日、雑談の中で、被告フランスベッドの関係者から栗城に対し、どの程度生産することができるかを話題にし、月産五〇〇から一〇〇〇台との数字が出た。

その後、被告フランスベッド内部で、本件商品に関し問題が発生した場合の責任の分担を明らかにしておく必要があるとの意見が出された。

3  原告は、完成品ができたので、平成七年一一月三〇日、被告フランスベッドに持参して紹介した。同被告は、研究部で正式に完成品の各種試験を行うことにした。

4  渡辺は、研究部も本件商品を被告フランスベッドの商品として取り扱うことに前向きな意向を示していたので、野口濶志(以下「野口」という。)営業本部副本部長の了解を得て、平成七年一二月二一日、栗城に対し、翌年一月一九日開催の商品説明会(被告フランスベッドの得意先の家具店を集め各種商品を説明する催し)に本件商品を出品することを認める旨伝えた。原告は、商品説明会に本件商品を出品した。

なお、渡辺は、本件商品の商売がうまくいき拡大していくことを期待しており、平成七年一〇月四日の試作品説明会以降、栗城に対し、酒の席などで、本件商品は五〇〇台から一〇〇〇台くらいは売れるかもしれない、そうなれば原告にも大きな利益をもたらす旨述べていた。

5  栗城は、被告フランスベッドとの本件商品の取引に期待をかけていた。また、千葉や渡辺も、本件商品は有望であり、被告フランスベッドが取り扱って販売しようと考えていた。千葉は、平成八年一月一七日ころ、原告に対し、取引契約締結に必要な書類として、購買基本契約書、品質保証に関する覚書、御取引先調査表、領収書印鑑届及び銀行口座振込依頼書、印鑑票を交付した。この購買基本契約書は、被告フランスベッドが原告から本件商品を継続的に買い受ける旨の内容であるが、被告フランスベッドの記名押印はなく、日付も空欄であった。

なお、被告フランスベッドの研究部は、平成八年一月二四日、本件商品はなお検討事項もあるが、基本的には技術的問題はない旨の調査報告書を取りまとめた。

6  原告は、被告フランスベッドから交付された購買基本契約書その他の書類に署名押印した上、平成八年一月二九日、印鑑証明書と共に、被告フランスベッドに送付した。

7  そこで、千葉は、原告との購買基本契約締結についての決済文書を起案し、渡辺信彦及び野口両営業本部副本部長の決済を得た。

8  原告は、平成八年二月三日ころ、被告フランスベッドの要請により、藤本靖雄東京営業部長に本件商品の説明をした。千葉は、平成八年二月六日、原告に対し、被告フランスベッドが使用する本件商品のカタログに用いる同被告のロゴを送付した。また、千葉は、同月八日、原告に対し、具体的な記載内容を指示してカタログの作成を依頼した。原告は、指示に従い、発売元被告フランスベッド、製造元原告と表示したカタログを作成した。原告は、同月一五日、被告フランスベッドの求めに応じて、本件商品の販売先業者の一覧表を提出した。

9  千葉は、社内の管理部に対し本件商品の販売促進費の決済を求めたところ、平成八年二月中旬ころ、管理部から、顧客から本件商品についてのクレームが出てトラブルになった場合、原告が適切に対応処理することができるかとの問題を指摘された。そこで、千葉は、野口副本部長と協議した結果、平成八年二月一九日、原告の規模等からみてクレーム対応能力に欠ける面があるから原告との取引は取り止めるとの結論に達した。

10  千葉と渡辺は、平成八年二月二三日、栗城に対し、本件商品の取引を取り止める旨申し入れて、謝罪した。そして、渡辺らは、栗城に対し、被告フランスベッド販売を紹介するから同被告と話してみてはどうか、うまくいったら、将来被告フランスベッドが原告と被告フランスベッド販売との間に入って取引をすることも考えている旨述べた。

なお、千葉らは、栗城に対し、カタログ代は弁償すると申し入れたが、栗城は、本件商品用のアタッシュケースを発注済みであることによる損害や既存の取引先との取引を打ち切ったことによる損害などもある旨の指摘はしなかった。

11  栗城は、平成八年三月一四日、被告フランスベッド販売の鎌田民雄(以下「鎌田」という。)営業部長と面談した。鎌田は、平成八年一月一九日の商品説明会に出席していたので、本件商品のことを知っていた。原告と被告フランスベッド販売とは、平成八年三月二六日、同被告が本件商品等を委託販売する旨の本件契約(一)を締結し、取引開始に伴う処理要領を作成した。

12  被告フランスベッド販売は、直ちに、東北・北海道の支店を利用し、原告の神山部長の指導を受けながら、被告フランスベッド販売の販売員による本件商品の販売を試みた。しかし、二、三か月間で五三台しか売れなかった。

13  そこで、栗城と鎌田が相談して、被告フランスベッド販売がエステティックサロンを開設し、そのサロンで原告から仕入れた美容機器等の商品を販売する、原告はエステティックサロン経営のノウハウを提供する旨合意し、平成八年七月二七日、その旨の本件契約(二)を締結した。

鎌田と栗城とは、まず被告フランスベッド販売の唯一の直営家具店エフビーヨコハマの店舗を利用して、エステティックサロン第一号店を平成八年一一月一日にオープンすることとした。その際、鎌田は、栗城に対し、被告フランスベッド販売には全国に支店等の拠点が五〇店舗あるので、第一号店がうまくいったらエステティックサロンの数を拡大していきたい旨述べた。

14  原告は、被告フランスベッド販売に対し、エステティックサロン経営のノウハウを提供し、女子社員の採用に協力し、神山が原告社屋で女子社員の研修を実施した。また、原告は、被告フランスベッド販売の依頼により、第一号店で使用する機器類や販売用商品の見積りをした。

15  平成八年八月中旬ころ、被告フランスベッド販売の内部で、本件商品が医療機器に当たる可能性があり、そうなれば薬事法に違反するのではないかとの問題提起があった。被告フランスベッド販売は、厚生省に相談したら、本件商品は医療機器に当たる可能性があるとの非公式回答があり、また、エステティックはクレームの多い事業でリスクも大きいと言われた。そこで、被告フランスベッド販売は、再検討の結果、平成八年九月一二日、会社の信用を落とすことを避けるため、原告との契約を解消することに決定した。鎌田は、翌一三日、栗城に対し、その旨伝えて謝罪した。栗城は、第一号店のための機器類や販売用商品の代金支払を求めたが、それ以外の損害については言及しなかった。なお、その後、被告フランスベッド販売は、原告に対し、商品代金を支払う用意がある旨伝えた。

16  原告は、平成八年一〇月二四日、被告フランスベッドに対し一億六〇〇〇万円余の損害賠償を請求し、被告フランスベッド販売に対し七億四〇〇〇万円余の損害賠償を請求した。これに対し、被告らは二〇〇〇万円余を支払う意向を示したが、金額の折り合いがつかず、原告は、平成一〇年三月に本訴を提起した。

二  被告フランスベッドの責任

1  本件係争契約の成否について

一の認定事実によれば、千葉は、平成八年一月一七日ころ、原告に対し、購買基本契約書その他契約締結に必要な書類を交付したこと、原告は、これらの書類に署名押印の上、同月二九日、被告フランスベッドに返送したものである。

しかし、被告フランスベッドが原告に交付した購買基本契約書等には同被告の署名押印がなく、また、同被告の購入代金額は附属協定書のとおりとする旨定められていたが(購買基本契約書第九条)、その附属協定書は添付されていなかったこと、「品質保証に関する覚書」もその有効期間が空欄となっていたこと(第一二条)、千葉は、原告からその署名押印のある購買基本契約書等の返送を受けた後に決済権者である野口副本部長らに対し原告との契約締結についての決済を仰いでいることから考えて、千葉が原告に購買基本契約書等の書類を交付したことは、原告との本件商品に関する契約締結に向けての最終的な準備行為と認めるのが相当であって、これをもって契約の申込みと認めることはできない。したがって、原告がこれらの書類に署名押印の上被告フランスベッドに返送したことにより、契約が成立したものということはできない。

原告代表者は、もっと早い時点で口頭による契約が成立した旨供述するが、前記一の認定事実によれば、千葉・渡辺と栗城との間で被告フランスベッドが本件商品を取り扱うことにつきかなり前向きな話が進行していたが、それ以上に進んで取引の具体的な内容まで合意されていたとは認められない。

他に本件係争契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告フランスベッドの債務不履行責任に基づく原告の請求は理由がない。

2  被告フランスベッドの不法行為責任について

前記一の認定事実によれば、千葉と渡辺は、当初から本件商品に関心を持ち、被告フランスベッドが原告と契約を締結して同被告において本件商品を取り扱おうと考え、原告に対し、いずれ契約を締結するとの前提でかなり前向きな話をしていたこと、千葉は、平成八年一月に原告に対し正式な契約締結に必要な購買基本契約書等を交付し、翌二月初旬には、契約締結を前提に、原告に対し被告フランスベッドの社名入りカタログの作成を依頼したことが認められる。

これらの行為は、原告との契約締結を前提とするものであり、原告が被告フランスベッドと契約を締結することができると期待したことには、無理からぬものがある。

ところが、被告フランスベッドは、契約締結直前の最終段階で、管理部から原告のクレーム処理能力の問題を指摘され、結局、原告との契約締結を断念したものである。

管理部は、本件の担当部局であり千葉らが属する営業本部とは異なる部局であるが、平成七年一〇月の段階で、研究部からPL問題への適切な対応の必要性が指摘されており、また、本件商品に関し問題が発生した場合の責任の分担を明確にする必要性があることも指摘されていたのであるから、被告フランスベッドの担当者としては、原告に対し契約締結を前提としてカタログの発注等をする前に、クレーム処理の問題についても社内で協議検討し、管理部とも相談をしておくべき義務があったものというべきである。担当者は、これを怠り、原告に対し契約締結を当然の前提とした対応をしたものである。したがって、被告フランスベッドには、不法行為責任があり、これにより原告に生じた後記四1の損害を賠償する責任がある。

なお、原告は、被告らの共同不法行為を主張するが、前記一の認定事実によれば、被告フランスベッド販売は、被告フランスベッドとは関連性なく独自の立場で原告と交渉して契約を締結したものであるから、原告の右主張は、採用することができない。

3  法人格否認について

原告は、被告フランスベッド販売の法人格否認を主張するが、本件全証拠によるも、被告フランスベッド販売の法人格が全く形式的なものにすぎないとの事実や同被告が独立の法人として設立・運営されていることが会社制度の濫用に当たるとの事実を認めることはできない。

三  被告フランスベッド販売の責任

1  本件契約(一)について

前記一の認定事実によれば、原告と被告フランスベッド販売とは、平成八年三月二六日、本件商品の委託販売に関する本件契約(一)を締結したが、二、三か月間に五三台しか売れなかったので、平成八年七月二七日、被告フランスベッド販売が原告の協力を得てエステティックサロンを経営し、そこで本件商品等を販売する旨の本件契約(二)を締結したものである。

そうすると、本件契約(一)は、原告と被告フランスベッド販売との合意により、本件契約(二)に吸収されて、独立の存在を失ったものと認めるのが相当である。

原告は、本件契約(一)につき被告フランスベッド販売が若い女性販売員による販売活動をすべき契約上の義務があったのに高齢の女性社員に営業を担当させた義務違反がある旨主張する。

しかし、両者の合意文書である「取引き開始に伴う処理要領」に販売員の年齢や資格などについての記載はなく、販売員を一定の年齢までの者とすることが契約内容になっていたとの証拠はない。

また、被告フランスベッド販売が本件商品の販売活動をするに際しては、原告の神山部長が指導に当たっていたのであり、また、被告フランスベッド販売としても本件商品ができるだけ数多く売れることを期待していたものと考えられるから、五三台しか売れなかったことが被告フランスベッド販売の契約上の義務違反によるものと認めることはできない。

したがって、被告フランスベッド販売には、本件契約(一)の不履行はない。

2  本件契約(二)について

前記一の認定事実によれば、被告フランスベッド販売は、一方的に本件契約(二)を破棄したものであるから、これにより原告に生じた後記四2の損害を賠償する責任がある。

なお、被告フランスベッド販売は、本件商品と薬事法との関係につき、非公式に行政当局の意見も聞いて、問題があると判断したものであるが、このような検討は、契約締結前にすべきことであって(被告フランスベッドは検討した。)、このことは、本件契約(二)の破棄を正当化するものではない。

3  共同不法行為について

原告は、被告らの共同不法行為を主張するが、前記二2で述べたとおり、採用することができない。

四  原告の損害

1  カタログ代金

原告が被告フランスベッドの依頼に応じて本件商品の販売用カタログを作成し、その代金が四九万六五六三円であることは、争いがない。

これは、被告フランスベッドが賠償すべき原告の損害である。

2  商品代金

原告が被告フランスベッド販売の求めに応じて業務用機器及び販売用商品を準備したが、同被告が本件契約(二)を破棄して引き取らなかったことは、争いがない。甲二八の1から5までによれば、その代金(消費税込み)は一二九四万一五三八円であると認められる。

これらの商品は、被告フランスベッド販売専用のものではなく、原告は、同被告が引き取らないのであれば、他に転用することもできるものである。

しかし、原告は、被告フランスベッド販売から注文を受けて同被告のためにこれらの商品を準備したものであり、これらの中には、被告フランスベッド販売に納品するために仕入れたものも相当あるものと推認される。そうすると、被告フランスベッド販売からの注文がなければ仕入れる必要はなかったものである。そして、原告がこれらの商品を直ちに同額で他に販売することができたとの証拠はない。これらの事情に本件の事実経過を考え併せると、右の一二九四万一五三八円全額が被告フランスベッド販売が賠償すべき原告の損害であると認めるのが相当である。

五  原告主張のその余の損害について

1  アタッシュケースの発注に伴う損害について

原告は、月産五〇〇台から一〇〇〇台を前提に、アラハリ食品に金型二五〇〇万円とアタッシュケース三万台一億八二三一万円を発注し、違約金九六六八万八〇〇〇円を支払った旨主張し、甲一三から一八まで、二〇から二二まで、四六、原告代表者の供述は、これに沿うものである。

そして、甲一九、二三の1から9まで、四八の1から6までによれば、原告は、アラハリ食品に対し、平成八年三月二九日に一四〇〇万円、平成九年二月三日に一〇〇〇万円、同月二六日に一〇〇〇万円、同年三月二七日に一〇〇〇万円、同年四月三〇日に一〇〇〇万円、同年六月二日に一〇〇〇万円、同月三〇日に一〇〇〇万円、同年七月三〇日に一〇〇〇万円、同年八月一日に一六八万八〇〇〇円、同年九月一日に一一〇〇万円の合計九六六八万八〇〇〇円を送金したことが認められる。

しかし、原告の主張とこれに沿う証拠には、次のとおり多くの疑問がある。

(一) アラハリ食品は、食品の販売等を目的とする会社で、これまで原告との取引がなかったのに、原告がいきなり二億円を超え、しかも食品とは無関係な物品の取引をすることは、不自然である。しかも、アラハリ食品は、フィリピンの業者に製造を依頼したというが、アラハリ食品がフィリピンにおける金型やケース製造業者を知っていたとの客観的な証拠はない。

(二) アラハリ食品の平成七年一〇月一三日付け見積書(甲一三)があるが、この時点では、原告が被告フランスベッドに本件商品の試作品を見せたにとどまり、完成品ができあがっていなかったのであるから、原告と被告フランスベッドとの交渉はまだ具体的には進んでいなかったものと考えられる。このような時点で、原告が被告フランスベッドとの大量の取引を念頭に置いて見積りを求めたということは考えにくい。また、原告の認識によれば、平成七年一二月には口頭の合意が成立し、翌年早々には実際に取引が始まるということであるのに、原告は、アラハリ食品に具体的な納期を約束させた形跡はない。現に、アラハリ食品に発注したアタッシュケース一万二〇〇〇台ができたのは平成八年八月になってからであるという(甲二一)。これらの点について合理的な説明がない。

(三) 原告は、平成六年から、エース株式会社に美容機器を入れるアタッシュケースを発注しており、単価は一台六一〇〇円であった(乙一六、二二)。原告が被告フランスベッドとの取引に係るアタッシュケースを従来から取引のあるエース株式会社に発注しなかった理由が明らかでない。しかも、エース株式会社に発注すれば、金型を新たに作る必要はないから、単価六一〇〇円に三万台を乗じた一億八三〇〇円ですむのに、原告は、アラハリ食品に対し、金型二五〇〇万円、アタッシュケース単価五九〇〇円に三万台を乗じた一億七七〇〇円の合計二億〇二〇〇円(消費税は除く。)で発注している。原告がこのようにかえってコストがかかる発注をしたということは、不自然の感を免れない。

(四) 原告は、被告フランスベッドとの本件商品の大量の取引に備えてアタッシュケース三万台(とりあえずの納品は一万二〇〇〇台)を発注したというが、この数に見合うだけの本体である本件商品の製造を行ったとの証拠はない。

(五) 原告がアラハリ食品から購入するアタッシュケースの購入単価は五九〇〇円との約束であるが、アラハリ食品はこのアタッシュケースを同額の五九〇〇円で製造した(甲二一)というのも、商人の取引として通常考えることができないものである。

(六) 原告は、平成九年一月一一日、アラハリ食品との間で、原告が金型残代金一一〇〇万円及びアタッシュケースに係る違約金七一六八万八〇〇〇円を支払い、金型とアタッシュケースをすべて放棄する旨の示談をしたという(甲二二)。しかし、この内容は、アラハリ食品に対する契約不履行が原告にあったといっても、原告は一億円近い違約金を払いながら得るものは何もないという、あまりに原告に不利益なものである。原告は、金型の代金二五〇〇万円は全額払うというのに、金型の引渡しを受けて損失を少しでも押さえようとアラハリ食品と交渉した形跡は全くうかがわれない。

(七) 原告は、被告フランスベッドから取引取りやめを言われたときも、被告フランスベッド販売から契約解消を言われたときも、アラハリ食品に大量のアタッシュケースを発注済みであることを述べていない。

以上のとおり、アラハリ食品に対するアタッシュケースの発注についての原告の主張やこれに沿う証拠には、払拭することのできない多くの疑問がある。原告の主張に沿う各証拠は、採用することができない。

したがって、原告のアラハリ食品に対する合計一億円近くの金銭の送金が原告主張のアタッシュケースの取引に係る違約金の支払であったと認めることはできない。

なお、甲四五(渡辺と栗城とが平成八年一〇月一八日に面談した際の模様を原告が撮影したビデオテープの反訳書)によれば、渡辺は、栗城に対し、原告が金型とアタッシュケース一万二〇〇〇台を発注済みであることを知っている旨述べたことが認められる。

しかし、これは、その全体の内容と乙一〇によれば、原告に対し申し訳ないとの気持ちがあった渡辺が、栗城をなだめ、自己の属する被告フランスベッドに迷惑がかからない形で穏便な解決を図ろうと考えて、できるだけ栗城の機嫌を損じないように配慮しての発言であると認められるから、原告の主張を認めるには足りない。

他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

2  顧客を失ったことによる損害について

原告は、被告フランスベッドから既存の取引先を整理縮小することを要請されて、平成七年末から平成八年始めにかけて取引先六社への商品の出庫を整理縮小したため、得べかりし利益相当額の損害を受けた旨主張する。

(一) 原告代表者は、これに沿う供述をしているが(甲四六の陳述書も同旨)、被告フランスベッド側から言われた言葉は、「被告フランスベッド一本にしてほしい。」「新商品である本件商品は他の取引先に出さないでほしい。」「本件商品のほか、既存の商品も含めて他との取引をやめてほしい。」「被告フランスベッドの一員になってやってほしい。」等供述の都度変遷がある。

前記一の認定事実によれば、千葉や渡辺は、原告とタイアップして本件商品の販売を強力に推進しようと計画し、その実現に向けて栗城と交渉を進めていたものと推認されるが、原告に対し、既存の取引先を切るよう強制したり、これを契約締結の条件としたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(二) 被告らの聞き取り調査(乙一五)によれば、原告主張の六社のうち三社は、原告から取引停止を言われたことはない旨回答し、他の三社は、今でも原告と取引がある等の理由で回答が得られなかったことが認められる。

(三) 原告の確定申告書(甲二から五まで、六の1、五〇の1、五一)によれば、原告の三月決算期における全体の売上高は、平成四年度(平成四年五月から平成五年三月まで)一億三〇二七万円余、平成五年度(平成五年四月から平成六年三月まで。以下同様)一億八〇六五万円余、平成六年度二億五〇二八万円余、平成七年度三億七一三六万円余、平成八年度四億三〇九八万円余、平成九年度三億二七七二万円余、平成一〇年度四億〇六一一万円余であったことが認められる。これによれば、平成七年度及び平成八年度は前年に比べて売上高が増加しており、その後も顕著な減少はない。

(四) 原告主張の六社に対する売上高に関する原告の集計結果(甲二五の1から8まで)をみても、平成六年度(平成六年四月から平成七年三月まで。以下同様)一億六九九五万円余、平成七年度一億八六七二万円余、平成八年度九二一七万円余である。なお、平成九年四月から同年一〇月までの半期で一六〇七万円余であった。原告が被告フランスベッドから言われて平成七年末から平成八年始めにかけて既存取引先との取引を縮小したのであれば、平成七年度(平成七年四月から平成八年三月まで)の売上高が増加したのは不自然であり、平成八年度(平成八年四月から平成九年三月まで)の売上高はもっと減少したはずである。また、右集計結果によれば、平成八年九月以降の売上高が従前に比べて減少しているが、取引自体は続いていることが認められる。

(五) 原告は、被告フランスベッドから取引取りやめを言われたときも、被告フランスベッド販売から契約解消を言われたときも、既存の取引先を整理縮小したため売上げが減少した旨述べていない。また、原告は、平成八年一〇月二四日に被告フランスベッドに対し損害賠償を請求した書面(乙二五)でも右のことに言及していない。被告フランスベッド販売に対する書面(乙二六)でも「契約解除による損害、顧客の減少及び新規顧客の停止、社会的信用の消滅による売上ダウンの損害金」「フランスベッド販売(株)との契約で新規の代理店の勧誘停止、顧客の整理及びフランスベッド販売(株)との3年契約成立で顧客とのトラブルでの売上減少」と記載しているにとどまり、原告が本訴で主張している取引先六社との取引を縮小したとの具体的な記述はない。

これらの事情を考えると、原告が取引先六社を整理縮小したとの前記証拠は、採用することができない。甲四五が原告の主張を裏付ける証拠となるものでないことは、前記1のとおりである。

他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

3  研修施設の内装費について

原告は、研修施設の内装工事代金三〇〇万円を支払ったと主張する。

しかし、原告がその証拠として提出した有限会社坂田商事の領収書等(甲二七の1から3まで)は、原告が証拠として提出するために有限会社坂田商事に頼んで作成したもので、事実に反するものである(原告代表者の供述)。

原告代表者は、本当は、山田工務店に内装工事を頼んで二七五万円支払った旨供述する。しかし、甲二七の作成経緯や山田工務店に内装工事代金を支払ったとの客観的な証拠はないから、原告代表者の供述は、採用することができない。他に原告が内装工事代金を支払ったとの証拠はない。

4  業務用脱毛機材料代金について

原告は、被告フランスベッド販売が経営するエステティックサロンに納品するため、業務用脱毛機三〇台分の材料七六二万六九〇〇円を仕入れた旨主張し、有限会社イノテックの納品書等(甲二九の1から3まで)は、これに沿うものである。

しかし、原告が被告フランスベッド販売のエステティックサロン第一号店に納品するために準備した脱毛機二台は前記四2の損害に含まれている(甲二八の1)。そして、被告フランスベッド販売が原告に対しこれ以上に業務用脱毛機を発注したとの証拠はない。

原告は、被告フランスベッド販売がエステティックサロンを全国五〇店舗に拡大する旨約束したと主張し、原告代表者は同旨の供述をしている。

しかし、前記一の認定事実によれば、鎌田は、第一号店が成功したら全国に拡大したい旨を述べたにとどまり、第二号店以降の場所やオープン時期などの具体的な内容が話し合われた形跡はない。被告フランスベッド販売にとっては、エステティックサロン経営は初めての新規事業であったから、うまくいくかどうか不明な当初の段階で、全国展開を合意するとは通常考え難い。したがって、鎌田の右発言は、原告に対する約束ではなく、将来の抱負や希望を伝えたにすぎないものと考えられる。

原告は、鎌田のこのような発言を聞いて、被告フランスベッド販売のエステティックサロン経営がうまくいき全国に展開していくことを期待し、また、全国展開を見込んで、被告フランスベッド販売の注文を受けることなく自分の判断で業務用脱毛機三〇台分の材料を仕入れたものと認められる。

したがって、この代金は、被告フランスベッド販売の債務不履行による損害と認めることはできない。

5  制裁的慰謝料について

原告は、被告らに対し制裁的慰謝料を請求している。

しかし、損害賠償は、被害者又は債権者に現実に生じた損害を賠償するものであり、現実に生じた損害を超えて制裁として賠償を命ずべきものではないから、原告のいう制裁的慰謝料を認めることはできない。

なお、原告は、大手の被告フランスベッドとの取引開始に大きな希望と期待を抱き、これがうまくいかなくなってからは、なお被告フランスベッドとの将来の取引を夢見ながら被告フランスベッド販売との取引に期待をつないだのであるが、同被告の事情により取引開始に至らなかったものである。原告代表者栗城の落胆と失望の思いは想像に難くない。しかし、被告らの行為により原告に現実に生じた財産的損害が賠償される以上、これに加えて慰謝料支払の対象となる精神的損害があったとは認められない。原告は、大きな希望と期待を抱いたあまり、被告らとの正式な合意が成立していない事柄についても実現されるものと思い込んだものと考えられる。

六  結論

以上のとおりであるから、被告フランスベッドは、原告に対し、カタログ代金四九万六五六三円の損害を賠償すべき不法行為責任がある(遅延損害金は、年六分ではなく、年五分)。また、被告フランスベッド販売は、原告に対し、商品代金一二九四万一五三八円の損害を賠償すべき債務不履行責任がある。

したがって、原告の請求は、右の限度で理由があるが、その余は理由がない。なお、原告の請求額と認容額との割合及び被告らが本件訴訟前の交渉で本判決認容額程度の賠償金を支払う意向を示していたことを考えて、訴訟費用は、民事訴訟法六四条ただし書の規定により、原告に負担させることにする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池洋一)

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